頭の隙間のダイアログ

日記。筆記開示。オートマティズムの精神。自己対話。

おやすみなさい

帰りの電車の窓から見た空はねずみ色だった。少し黄みがかって重い空気。湿気を含んでいて暗い。こういう天気のことをすごく好きだ。嫌いな天気というものがないから取り分けて一番というわけではないけどすごくいい。

電車から降りたら窓から見ていたのと反対側の空が夕焼けで桃色になっていた。ぬるい赤が暗い雲から染み出して大気の半分が暖まっているようだ。ねぇねぇ見て、すごく綺麗だよ。プラットホームを歩く人々に声をかけてまわりたくなった。人々は、まっすぐ前を向いて、スマホを覗き込みながら、連れ合いと喋りながら、階段へ向かい、黄色い線の内側へ向かう。なんだよ。僕は、そうだな、よそ見をしながら歩くは危ないからね、と思った。スーパーの手前ですれ違った真っ赤な口紅のおばちゃんが空のほうを見ていた。高架下の路地の間ですれ違った白キャップの浅黒い兄ちゃんも。僕は少し嬉しくなった。

アパートの、橋の手前で僕を追い抜いた自転車が、規則的な甲高い音できしみながら走っていった。向こうから、ブルドッグを連れた人間が、人間を連れたブルドッグが、人間と一緒に歩いているブルドッグが、ブルドッグと一緒に歩いている人間がやってくる。ブルドッグ氏はハァハァフゴフゴと荒い息、野性的でステキだ。人間がハァハァフゴフゴやっていたら、同じこと思わないだろうなと思った。僕は自分の差別主義者たる側面を飽くことなく自覚した。アパートに着くころにはもう日は落ちて宵の口だ。玄関の電気が寿命で明滅してる。ドアを開けて荷物を下ろした。

風呂に湯を張って全部の電気を消した。アイソレーションタングごっこを久しぶりにやった。アイソレーションタンクは、重力や感覚を遮断することを目的として作られた装置、だそうだ。暗闇で、無音の中、カプセルに満たされた皮膚と同じ温度の水に浮かぶ。リラックス、心理療法、高い瞑想状態などの効果を期待して用いられる、らしい。狭い浴槽に体を折り畳んで入る。耳をふさぐと、闇と温水の中で、手の筋肉の動く音だけが鮮明になる。愉快な気持ちになる。僕には胎内回帰願望があるのかもしれない。単に合法的トリップ状態を求めているだけか。

PCを起動し、キーボードを叩いて、これを書いた。くたびれたな。眠たい。今日も、昨日買った音楽を聞いて眠ろう。