頭の隙間のダイアログ

日記。筆記開示。オートマティズムの精神。自己対話。

黄昏雨

昨日もひどい夏日だった。ぎらぎらと蒸し暑く陽炎はゆらゆら。日中はそんな様子だったけど、夕方突然暗雲がたちこめはじめて、わくわくが止まらなかった。暗い雲の、遠く上のほうからゴロゴロと稲妻の轟。台風の前みたいな黄昏色の空気! 興奮する。結局、雨は振りはじめて、ぽつぽつ、しとしと、さあさあ、ざんざんとグラデーションして、でも空は晴れていた。夕方で、西から差す太陽が橙色で。スーパーに買い出しに寄って、店から外に出ると、空から光がよく見えた。夕日が差す中まっすぐに雨が降って、雨の一本一本が太陽を反射して光っていて、きれいだった。トタンに雨音のぶつかるガラン、ゴロンという音がよく聞こえた。踏み切りで遮断器が上がるのを待っているとき、曇り空に大きな虹がかかっているのを見た。電車がなかなか通過せず、やけに信号待ちが長かった。

 

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先月似たような感じで雨が降った日に書いた走り書きが、下書きに残っていた。ので、手直しして供養。

 

 

空は曇っている。

七夕から3日経った。

梅雨の午後6時。曇りの向こうに晴れ間がうっすらと見え、かすかに茜色の空気が差す……湿気ていて、今にも雨が降り出しそう、と思う間に降りはじめる。細い糸か、針のような、小ぶりだが鋭い雨粒。

僕の前方を歩く、ライトブルーのシャツを着たサラリーマンが歩きタバコをはじめる。彼は足早に遠ざかっていく。その背中を目で追う。よれた襟元、くたびれた鞄、傾いだ首と背中………小雨の中焚かれていく、ひと塊の煙。アスファルトが日中存分に蓄えた、熱気と汚れが蒸発していく臭い。それらが、尾を引いて漂ってくる脂の臭いといっしょくたに混ざって、次第に立ちのぼりはじめる。

背後から女の声。

「雨降ってきたよお」「いつ止むのかな?」「すごい降ってるよ、止まないよお」「どのくらい降ってるんだろう」「いったん家に傘取りに帰らないと」

どちらの声も、ほとんど同じ声質で聞き分けられない。

「雨降ってきたよお」「いつ止むのかな?」「すごい降ってるよ、止まないよお」

話し声は同じ会話を繰り返す。認知症の患者と、調子を合わせる介護者?

「どのくらい降ってるんだろう」「いったん家に傘取りに帰らないと」「雨降ってきたよお」

会話はループしている。

「いつ止むのかな?」「すごい降ってるよ、止まないよお」

声の主が駆け出し、僕を追い越していく。走り去っていく後ろ姿を見る。薄水色のパーカーに、やけに大きなリュック。通り過ぎていくのは、一人。振り返ってみる。誰もいない。

彼女は駆け足で踏み切りに近寄りより、電車を待つ。

「どのくらい降ってるんだろう……いったん家に傘取りに帰らないと……雨降ってきたよお」

僕は遮断器と、その人を横切り、橋へ向かう。感覚が広がっていく。橋の下を流れる川。橋向こう、小高い坂の上の林。空は鈍色に、化粧のような橙。今まさに、けむった雲をくぐりながら、流れていく飛行機。道の遠くに見えるのは、二つ咲いたビニール傘、傘の反射する、曇った西日……ビルの輪郭、街の形、電線の一筋一筋が……神経の末端にまで、感触として届く。届き続け、拡大、拡散されていく意識に、快感と絶頂がたえず走って震える。僕はこれを、と思う。この瞬間をいつも、どんななによりも心待ちにしている。だが、こういった感度に波長が合うことは稀で、またアンコントローラブルだ。瞬間と瞬間との偶然の一致。なににも代えがたい永遠のような多幸感。深い満足。僕はこれを感受するために生まれ、そのために今日まで育った。そのために自分を生かしてきた、と思う……

 

 

ボーズオブカナダこのアルバム

Tomorrow's Harvest - Album by Boards of Canada

聴きながら書いてたんだけど、意識とシンクロして気持ちよくなってた

やっぱ音楽って麻薬だ

 

 

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寂しさを振りまいてーサービスしすぎるのが余計だー