頭の隙間のダイアログ

日記。筆記開示。オートマティズムの精神。自己対話。

骨なし

嫌なことがあって、泣きながら帰ってきた。小学生みたいだな。帰りの電車に、乗るまでは平気だったのに、つり革に捕まってじっと目をつぶっていたら、コンパスが狂った。また電車の中で泣いているのか?失禁を抑えられないなんてだらしがない。1年前もそうしていた。もっと前にも同じことがあった。あれは6、7年前。15年前。どれもまったく同じ種類のフォーマットで、やり過ごし方もなにもかも。やってることがなんにも変わっていない、何回同じことを繰り返してるんだろうか。友達の友達。クラスメイトのクラスメイト。

なんにも大したことじゃない。しょうもない話だ。ただ人が人の噂話をしていた。僕はそれを聞いてた、それだけだ。なにも起きていない。しかも噂話の対象は別に自分じゃない。例の今度退職する人の話題だった。噂の内容もこれまたとてもありふれている。ヤフーのネットニュースかなんかで、若者のなんたら問題みたいなトピックスを適当に開き、そこのコメント欄で、一番数字を集めてるメッセージで見られる、そういう種類のやつ。ツイッターでバズってる、会社における新人社員の素行がなんたらみたいなツイートを適当に開き、リプライ欄の底のほうで団子になってるメンションで見られる、そういう種類の、管巻きだ要は。管巻き。なんならいつも僕が一人でやってるのを外で聞いたような感じじゃないか、まさしく。自己陶酔した酔っぱらいのざれごとだよ。真に受けるだけバカを見るんだ。だいたい壊れたレコードかっつーくらいテンプレおっさん発言と化して使い回されまくってるから聞き飽きてるんだよ。そんなんで今更こんなダメージ受ける?受けちゃった。液晶越し、スピーカー越しにはいくらでも見聞きしてきたが、肉声のライブ感すごいね。

社会はそんなに甘くないんだよ、努力が足りないよ、俺の時代は今よりもっとガッツがあってどうたらこうたら。僕に言わせりゃ逆だ。あんたが社会を甘やかしてきたんだろう。お得意の自己犠牲で、求めるものは命でも魂でも一生懸命与えて、そうやって肥えさせた社会が求める要求は果てしなくつけあがった、あんたと、あんたの時代のあんたのようなやつ一人ひとりが社会とやらをそのように育て、扱ってきたんじゃないか。なぜそれに加担する必要があり、加担することが前提であると思う。お断りだ、あなたのやり方にも、あなたの時代のやり方にも加担したくない。いや労働してる時点で加担してるでしょ。ネット弁慶の本領発揮だね!いきりたってますね。いきらせてくださいよ。僕にはやり場がないんですよ。どこにもないんですよ。僕はただ吸収してしまったエネルギーを変換してるだけなんです出さないと体に障るんですよお、ムカつくよ、胸糞悪いんだよ、銃社会じゃなくてよかったですね、夜道に気をつけろクソ野郎、僕が銃身の代わりになにを磨いてきたか教えてやる、呪詛だよクソッタレ。脇で、でもそういうの、直接言ってあげるだけ優しいですよ、つってヨイショしてた君。本気か、君にとっての優しさとはなんだ?靴のサイズが合っていなくてつらそうだ。それを指摘し、最適なサイズがあるという発想を持ち、どうやって最適なサイズの靴を手に入るか、あるいは靴のもたらす痛みを減らせるか、一緒に考えること。僕はこういうのを想像した、君のは違う?足に合う靴じゃなく、靴に合う足をってそういう方向性?ところで、君には君の靴のサイズと歩幅が、僕には僕の靴のサイズと歩幅がある。そうだよね?それは違わないよね?で、サイズの合ってない僕の靴を君に履かせたら、きっとそれは小さすぎて窮屈で、たいそう痛いだろうと思うな。また、僕の歩幅に合わせて歩かせようと思ったら、君には幅が狭すぎて、始終イライラすることになるだろう。それでも、せいぜいお互い違うサイズなりに、歩幅を合わせあうことくらいはできる、そりゃいいよ、でも、合ってないサイズの靴に履き変えろってのはなんなんだ?自分のサイズに合わない靴に、足の形のほうを合わせるべきだと、それに同調して、なおかつやって然るべき当然の行いだと考えてるのか、そのように言っているのか?そうかよ。僕は君たちを童話で見たことがある、シンデレラって話に出てくるんだが。君はまたこうも言った。みんなそんなに他人のことになんか興味ないですよ。そりゃそうだろう。自分の足先をけずることに熱心になってりゃ、その痛みにだけ神経の注意が集まって他を考えられなくなるのは極めて自然なことだね!血涙を流しています。ブーメランだ!戻ってくるけど当たりゃいいんだ!当たんねえよ!なにも喋ってないんだもん。バーカバーカ!アホ!マヌケ!うわーん。

頭の中でだけは元気いっぱいですね、チキン野郎。体の方は黙って聞いていないフリをしていた。話題に上げている人物と僕の共通点をあからさまに挙げて、チラチラこちらを意識しながら、こういうヤツはこれこれこうだからダメだよなぁ~みたいに言っているのを聞いていたが、とにかく無視した。なにも言えね~。ダメと言われりゃそれまで。あなたから見ればダメなのは確かだ。レスバトル、文字でなら受けて立ちますよ、肉声はダメ。言葉が出てこないし泣いちゃうしすぐ下手に出るから。戦う前から負け犬モードだし。雑魚!いや戦わなくていい……。そうだよ!そもそも戦う必要ない。あんたがたの基準からすりゃ僕は落第だ、そんなのずっとわかってる。でも僕があんたの基準に合わせることはない。そうすると僕はもう歩けなくなるから。ともかく止まらず歩くことが重要だと思うんだけど、どう?君に基準を合わせてたら痛くて止まっちゃうんだけどなぁ!?みっともないことしか言ってないのになんでこんなに偉そうなんだ僕は。なんなんだよ。まさに今言うけど、身の丈にあった振る舞いをしろよ。わかっている。また八つ当たりか?ごめんね。その通りだよ。僕は甘い。知っているよ。あなたがたはその厳しい適者生存世界で戦略を用いてこれまで生き残ってきた、サバイバルしてきた。それは褒められるに値する立派なことだったんだろうし、だからこそ自分を誇って、そして人にもその水準を求める。相手の程度が低いと判断すると、途端にやきもきイライラするんだ。そうやってあなたが成就を得られたその努力信仰で、僕は襤褸切れになる。もう十分わかったんだよそれが。無理なんだよ。根本から造りがちげえんだ。自分の基準をスタンダードに当てはめて考えないでくれないかな。無理かな。無理か。無理だ。僕はまずこの発作とビョーキをどうにかしたほうがいい。話にならない。アサーティブって知ってるか?知っているがなんだよ。それがなんなんだろう。なんで僕は相手に自分の話が通じるだろう、聞く耳を持ってもらえるだろうなどと思っているんだろう。通じないよ。それが正常だ。これを病気と呼ぶなら他の感情だって全部病気だよ。出たよ「全部」。エンジンかかってるときとのテンションの落差がすごい。しかしあのね、この人達、とっても素直で正直で人間らしくて可愛いじゃないですか、完全に僕が一人相撲でいかれてるだけでしょ。自意識過剰とそれがもたらす臆病さ、被害妄想から来るさもしい暴力性が、コントラストで際立つ。表現しないほうがいい。どっちにしろあそこじゃ黙ってて「正解」だった。わかってる。でもそれじゃ今までと同じだ。結局自己嫌悪に戻ってくるわけですか、また歩きやすい、道の固まった、思考のけもの道を歩いている。どうすりゃいいんだよマジで。つまみを調節するんだよ。最大値と最小値を把握する。暴力性と向き合うしかない。一つ一つ丹念に感情を味わい尽くしていくしかない。過剰な発露が無用な加害になる。たとえ最小の感情が暴力を帯びていたとしても最大よりはマシ、少なくとも、気分的には。音量を絞るように感情を絞れば暴発も防げる。そのためにそもそも表現や自己主張それ自体に慣れないと話が進まない。でも、だいぶ慣れたよ。それは重畳。ガンバレ。がんばりたくないな…。なにもがんばりたくない。生まれてきたくなかったな。誰も殴ったり殴らなかったりしなくてすむようになりたいな。そういう願いや期待自体が、誰かを傷つける発端にあたるとわかっていても?うん。いや、わからない。消えていなくなりたい。もうどこにもいたくない。もうこんなこと一切考えなくてすむようになりたい。なにもかも要らない。消えてなくなればいい。情緒不安定がすげえなおい。消えればいいだろう。そうできるよ。したいことがあるなら実行に移せばいいんだよ。結局それもできないくらい消極で受け身でそのくせ我が強い、だから今そんなんなんだろう?バカだな僕は。身の丈を知るっていうのはそういうことだよ。なんでこんな些細なありふれた取るに足らない出来事や言葉にここまでダメージを受けられるんだ?おかしいよね。おかしいかな。単に周期的な感度の差か?あるかもしれん。駄々をこねていないでよく観察する必要がある。もう赤ん坊ではないのだから。いや、情緒が赤ん坊なんで困ってるんですけど…。育て直しだね。

 

帰り道、気持ちを鎮めようと遠回りして、たくさん木のある道を通った。木を見た。自分の胴体の何倍も何倍も太い太い巨木の幹を見ていた。どれだけ手を伸ばしてハグしても両腕で輪を作れないであろう太さだ。とても大きい。空を見上げると、小粒な葉っぱの一枚一枚が黒々と空を覆って、雄大に、風にそよぐのが見える。根っこはヒトの手のようだ。ごつごつうねうねとした指が力強く地面から生えている。そうやって土から宇宙的速度で養分を吸っている。それはとてもステキだ。落ち着くまで、カラスや、鈴虫の声、木の葉のさざめき、街の音を聞いて、ぼんやりしてから、家に帰った。夕方、学童保育から帰った無人の自宅で、テレビをつける。たまたまやっていたドラマの再放送で、人の消えた都会のビル群が、植物によって侵食され、ゴーストタウンと化す場面が映っている。それを見ていた時間のことをまた思い出した。なにかのタイミングでよく思い出す光景だ。そうだな。植物みたいになれたらいい。ヒトの時間を捨て、宇宙的速度で、土や、光や水や、大気から栄養を得る。死んで、それらに還元される。夢のようだな。今でも、意識すればそこに行ける。アパートのそばで、黒猫を見た。雲の流れが早く、秋の風で、寒かった。