頭の隙間のダイアログ

日記。筆記開示。オートマティズムの精神。自己対話。

通りを歩くと、建物に面した場所から突然、橋と川と広い空が現れる。川の突き抜ける、橋のかかったその辺りだけ、建造物をまぬがれてぽっかり空白のごとく、空が見える。夕方の空は、暮れかけてほの暗く、全身を影で化粧した雲が千切れるように広がり、でも明るい。ゆっくりとその姿を横たえる空、大きく細かく流れ光る水面、それを見、それを感じ、その空気を吸うとき、快楽で神経が痙攣する。音楽の力もすごい。グリッチノイズとか生楽器の音源とかシンセの音、エレクトロニカ、ポストロック、とかそういう系のプレイリスト、これで飛べる。

 

妙に平坦な調子の声音で鳴くカラスの声、語りかけるような、甘やかすような、さとすような、呼びかけるような。

 

からからに乾いたほおずきの亡き骸、葉脈の繊維がそのまま骨格として機能していて、その骨は硬く細く、でも柔らかくしなりを持ち、光に透かすと輝くよう。

 

頭上に気配があり、見上げると逆光でシルエットをくっきりと浮かび上がらせ、電線と同化した鳥の姿が真上にある。

 

選挙の投票、町内放送で思い出す。近所の学校が投票場所だったので歩いて行く。ほとんど夜で、辺りは薄紫、ひと気もない。校舎と、校庭の間に、湖ほどの隔たりがある。だだっ広い校庭には巨大な木が一本植わっている。投票場所を示す案内表示の矢印が、間隔をあけて点々と配置されている。矢印に従って歩く。妙な気分になる。絵画の中にいるようだなと思う。校舎の中は薄暗い。職員室を改装して受付にしている。古い電気。ほこりっぽく、沈んだ空気。地中を連想する。深い穴ぐら。はがきを渡す。投票用紙を受け取る。投票先の名前を書き込む。箱に落とす。トンネルのような廊下を渡って、地上の空気を吸う。木は相変わらずそこにある。家路につく。


夜、ゴミを出しに外に出ると空気が生暖かい。虫の声。シャンプーかなにか、生活の匂い。首から落ちた赤い椿がコンクリの上に血溜まりみたくある。なだらかな春。